- 数字だけ見ると 13 年(2006~2019年)で 10 倍に増えている
- 明確な診断基準を正確に知っている人が少ないことが原因では?
- 医学的には発達障害の診断がつかない「発達障害もどき」
- 「発達障害もどき」の子どもたちによく見られるのが、生活リズムの乱れと、テレビやスマホ、タブレットなどの電子機器の多用
- 発達障害の診断をしたものの症候が薄くなる
- 「発達障害の診断がつくと、それが生涯ずっと変わらない」というのは違う
- 脳の発達は、脳の一番中心にある「からだの脳」、大脳にある「おりこうさん脳」、前頭葉にある「こころの脳」の順
- 「からだの脳」が育っていないと「おりこうさんの脳」も「こころの脳」も育たない
- おりこうさん脳とは大脳と小脳のこと
- 「こころの脳」は、想像力を働かせること・判断すること・感情のコントロールをすること、人を思いやって行動することなど、まさに「人らしい能力」をつかさどる
- 「からだの脳→おりこうさん脳→こころの脳」の順番に、脳の部位を育てていくことが健全な脳の発達には欠かせない
- からだの脳が育っていない子は、「発達障害」と勘違いされてしまうことも往々にしてある
- 行うべきは「生活の改善」
- 睡眠不足が子どもの気になる言動を引き起こしているといっても過言ではない
- 生活リズムを整えるポイントは、早寝、早起き、決まった時刻の食事
- 一番に育てるべきは「寝る・食べる・動く」をつかさどり、生きるために欠かせない働きをするからだの脳
- 親が子どもの行動や失敗を予測して先回りしていると…
数字だけ見ると 13 年(2006~2019年)で 10 倍に増えている
近年「発達障害と呼ばれる子どもが劇的に増えている」といわれています。
2006年の時点では、発達障害の児童数は約7000人でしたが、2019年には7万人を、2020年には9万人を超えました。
途中から調査対象が広がったことを踏まえても、数字だけ見ると 13 年(2006〜2019年)で 10 倍に増えていることになります。
明確な診断基準を正確に知っている人が少ないことが原因では?
発達障害のおおよその知識は、現在学校現場にいる教師のほとんどが知っていると思いますが、明確な診断基準を正確に知っている人は少ないはずです。
このような背景から、学校現場で8%超の子どもが発達障害ではないかと疑いを持たれる現象が起きているのではと、私は考えています。
医学的には発達障害の診断がつかない「発達障害もどき」
現実に学校などから「発達障害では?」と指摘されて、私のところに相談にくる事例の中には、医学的には発達障害の診断がつかない例も数多く含まれているのです。
私はそのような例を「発達障害もどき」と呼んでいます。
発達障害もどきとは何かを大まかにお伝えすると、「発達障害の診断がつかないのに、発達障害と見分けのつかない症候を示している状態」を指します。
「発達障害もどき」の子どもたちによく見られるのが、生活リズムの乱れと、テレビやスマホ、タブレットなどの電子機器の多用
・原始的な脳が発達していないと言語も感情制御も社会性も獲得できないのでは?
脳の発達においては、生まれてから5年間は「動物として生きていくためのスキルの獲得」が優先される。
生活の中で五感にくり返し刺激を入れて脳を発達させ、自然界で生き延びる力を獲得するのが大切で、この原始的な脳が発達していないと言語も感情制御も社会性も獲得できない。
生活リズムが乱れ電子機器を多用すると、この原始的な脳の発達が遅れ、脳機能のバランスが崩れるため、発達障害と同じような行動を見せるのだと私は思っている。
発達障害の診断をしたものの症候が薄くなる
3つめの発達障害もどきは、「発達障害の診断がついていたにもかかわらず、その後、症候が薄くなったケース」。
これは私の診た子どもたちの中で実際に起きているのですが、生育歴などを確認し診断をつけた子であっても、その後の生活・環境改善により、症候が目立たなくなることがある。
「発達障害の診断がつくと、それが生涯ずっと変わらない」というのは違う
まず覚えておいていただきたいことがあります。
それは、「今の子どもの状態がすべてではない」ということです。
脳はいつまでも、成長し続けます。
つまり、小さい頃に気になる行動があったからといって、一生それが続くとは限らないということ。
脳科学の研究では、生まれた日から死ぬ日まで、脳内では神経ネットワーク(細胞のつながり)がつくられ続けていることがわかっています。
つまり何歳になっても、いつからでも脳細胞のつながりを増やせるということです。
脳細胞のつながりが増えれば、脳は成長していきます。
こういった脳が変わる可能性のことを「脳の 可塑性」と呼びます。
気になる行動を起こしている子どもの今の状態が、20歳、30歳までずっと続いていくということはありません。
子どもが発達障害の診断を受けると、親御さんの中にはショックを受ける方もいらっしゃいますが、落ち込む必要はないのです。
ここから子どもと一緒に脳を育てていこうと、前を向いていただけたらと、思っています。
脳の発達は、脳の一番中心にある「からだの脳」、大脳にある「おりこうさん脳」、前頭葉にある「こころの脳」の順
人間の脳は生まれてから約18年をかけて、さまざまな機能を獲得しながら発達していきます。
そして脳の発達する順番はどんな人でも同じ。
まず最初に発達するのが、脳の一番中心にある「からだの脳」、その次が大脳にある「おりこうさん脳」、最後に育つのが前頭葉にある「こころの脳」
「からだの脳」が育っていないと「おりこうさんの脳」も「こころの脳」も育たない
からだの脳は、脳幹や間脳、小脳、扁桃体などにあたる部分で、人が自然界で生きるのに欠かせない機能を担っている。
からだの脳の働きにより、人は自分の身を守り、生きていけます。
この生きるのに一番大切な脳は、0~5歳の間に盛んに育ちます。
この脳が育っていないと、次に説明する「おりこうさん脳」も「こころの脳」も育ってくれません。
おりこうさん脳とは大脳と小脳のこと
おりこうさん脳とは大脳と小脳のことを指します。
からだの脳を覆っているしわしわの部分で、私たちが「脳」といわれて一番に思い浮かべる場所のこと。
おりこうさん脳は、1~18歳くらいまでの間に時間をかけて発達します。
最も育ち、使われるようになるのは6歳以降で、小中学生の時期に大きく伸びる。
「こころの脳」は、想像力を働かせること・判断すること・感情のコントロールをすること、人を思いやって行動することなど、まさに「人らしい能力」をつかさどる
こころの脳は、前頭葉(脳の前側の部分)にあたります。
また、「からだの脳から前頭葉につながる神経回路」も、こころの脳の一部です。
主な機能は、想像力を働かせること・判断すること・感情のコントロールをすること、人を思いやって行動することなど、まさに「人らしい能力」をつかさどる部位です。
小さな子どもは、嫌だなと感じたら大声で嫌がり、おもしろいと思ったら遊びに没頭します。
まさに、感情に素直に起きていますね。
これは、このこころの脳が未発達だからでもあるのです。
突発的な感情・衝動をつくるのはからの脳。
それにブレーキをかけるのが、このこころの脳です。
からだの脳で突発的な感情や衝動が生まれたとしても、前頭葉が働けば、気持ちが落ち着き、じっくり考えたり、衝動的に行動することがなくなります。
こころの脳が育つと、論理的思考力も育ちます。
たとえば、家族が病気になり、1人で親戚の家に泊まりに行かなくてはならないとき、「家族と離れて遠くに行って泊まるなんて怖い」とからだの脳にある扁桃体で感じます。
その怖いという感情は神経回路を通って、前頭葉に移動するのですが、そこでこころの脳が働けば、「家族は近くにいないけれど、信頼できるおじさんとおばさんといとこがいる、きっと大丈夫」と論理的に考えて怖いという感情を抑えることができるのです。
自分は「ボール遊びをしたい」と思っていたのに、まわりの友だちに「ボール遊びはしたくない」と言われたときも、このこころの脳の出番です。
ボール遊びをしたいという気持ちにブレーキをかけ、相手の立場を想像して「ボール遊びではなく、何をしたいの?」と意見を聞き、一緒に遊べる方法を見つけようとする――。
これらすべてがこころの脳の働きによるものだからです。
こうして人はスムーズにコミュニケーションがとれます。
こころの脳は、10~15歳にかけてつくられ、18歳前後まで発達し続けます。
実は、こころの脳はおりこうさん脳に知識や情報などの記憶が十分蓄積されてから、それらを前頭葉で統合していくかたちで発達していきます。
つまり、おりこうさん脳が発達しなければこころの脳も発達しません。
同様に、人間の基本的な動きを支えるからだの脳が育っていなければ、おりこうさん脳もうまく育たないことが研究で分かっています。
だからこそ、「からだの脳→おりこうさん脳→こころの脳」の順番に、脳の部位を育てていくことが健全な脳の発達には欠かせないのです。
「からだの脳→おりこうさん脳→こころの脳」の順番に、脳の部位を育てていくことが健全な脳の発達には欠かせない
からだの脳が育っていない子は、「発達障害」と勘違いされてしまうことも往々にしてある
からだの脳が盛んに育つのは5歳までとお伝えしました。
この時期は優先して、からだの脳を育てる時期です。
しかし、この時期に早期教育などで、おりこうさん脳ばかり刺激すると、土台がうまく育たないことがあります。
脳のバランスが崩れた結果、「落ち着きがない」「集団行動ができない」「ミスや忘れ物が多い」などの行動が出たり、学校生活などがうまくいかなくなることは多々あります。
実は、これらの行動が発達障害で現れる症候によく似ているので、 からだの脳が育っていない子は、「発達障害」と勘違いされてしまうことも往々にしてあるのです。
行うべきは「生活の改善」
では、何をすればいいのでしょうか。
その方法として、行ってほしいのが「生活の改善」です。
生活を改善すると、
①からだの脳の育て直しができ、脳のバランスが整う
②セロトニン神経を育てられる
③睡眠が安定する
この3つのよいことが起き、発達障害もどきの子でも言動が変わっていきます。
①からだの脳の育て直しができ、脳のバランスが整う
からだの脳を育てるのに最も重要なのは、五感からの刺激です。
五感とは、味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚のこと。
この五感からの刺激を一番効率よく、たくさん入れられるのが「規則正しい生活のくり返し」。
つまり、規則正しい生活に改善することで、脳を育て直すよい刺激を得ることができます。
睡眠不足が子どもの気になる言動を引き起こしているといっても過言ではない
セロトニン神経は、からだの脳から、おりこうさん脳を通り、こころの脳まで走っています。
そして、すべての脳において大事な働きをしているのです。
そのため、セロトニン神経を育てることで、からだの脳も、おりこうさん脳も、こころの脳も、すべての働きがよくなることがわかっています。
このセロトニン神経を育てるのに大事なのも、規則正しい生活です。
朝には日の光を浴び、夜には部屋を暗くして寝る。
こうした生活をすることで、脳内でセロトニン神経のつながりが、たくさんできてきます。
実は寝ることは、生きる上で本当に大事なことなのです。
睡眠不足が子どもの気になる言動を引き起こしているといっても過言ではありません。
生活リズムを整えるポイントは、早寝、早起き、決まった時刻の食事
朝起きたら太陽の光(刺激)を目から入れて、朝であることを脳に知らせ、体内時計をリセットすることが重要
朝日を浴びることで、脳内のセロトニン量が増え、セロトニン神経もしっかりつながります。
小学生の場合、22時には熟睡状態になっているのが理想なので、どんなに遅くとも 22 時前にはベッドに入るようにしましょう。
規則正しい時間にしっかりと食事をとることで、からだの脳を刺激できます。
特に朝ごはんをしっかり食べると体内時計が刺激され、正しく動きだします。
一番に育てるべきは「寝る・食べる・動く」をつかさどり、生きるために欠かせない働きをするからだの脳
脳の中で一番に育てるべきは「寝る・食べる・動く」をつかさどり、生きるために欠かせない働きをするからだの脳だと何度もお伝えしてきました。
からだの脳を育てるためには、早起きし、しっかり食べ、よく寝ることをくり返すのが大事ですが、「日が昇ったら起きて、生きるためにしっかり食べて、日が沈んだら身を守るために安全な場所ですぐ眠る」これは、まさに原始人の生活と同じです。
からだの脳を育てる暮らしは、自然界で生き延びる原始人の暮らしと同じなのです。
親が子どもの行動や失敗を予測して先回りしていると…
多くの相談を受けてきて、ここには残念ながら家庭での親子の在り方も関係しているように感じます。
自分の状況を把握する力、心や体の状態を感じ取る力は、自ら試行錯誤をくり返すことで成長しますが、その機会が圧倒的に少ないのです。
これは、親が子どもの行動や失敗を予測して先回りしているのが原因でしょう。
親が頑張ることで、子どもが自分で感じて考え、行動する機会を奪っているのです。
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